示したリアリスムの力づよい歴史的な功績と比べて面白い。
今この部屋のスティームの上に、私の腹帯が乾してあり、その上にお正月用にお送りしたと同じ手拭がほしてあります。この手拭はスフ三分混紡で、今にこれでも珍しいものとなるわけですが、使って御覧になりましたか? ちっともさっぱり水が切れません。スフは赤ちゃんの皮膚を刺戟してただらすので、この頃お母さんになる人たちは、古いものでも木綿をきせたいと大努力です。私の腹帯にしろ、晒《さらし》木綿は貴重品、こうやって大切に扱う次第です。
どこかで鳥が囀《さえず》っている。外かしら、それとも室のどこかで飼っているのかしら、チュチュンチュンチュンと囀っている。それともどこかの籠から逃げたのでしょうか。何か気にかかる。
あしたの晩は三週間ぶりで、我が家の机の前に坐れます。そして、こういう万年筆ではないペンで字が書けます。この万年筆のこと、いつかお話ししたことがあるでしょうか、母のかたみだということを。パリで母の誕生日十月十日の記念に父が買ったものです。大切にビロードのケースに入れて、あの殆ど盲目に近かった眼で、勘九分でいつもいろいろ書いていたその万年
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