色いドテラの片肩をぬいで書いているので榊原さん曰ク「そんなにおあつうございますか」

 一月十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 豊島区目白三ノ三五七〇より(封書)〕

 一月九日夜  第五信
 今、夜の七時半。榊原さんはここの寄宿の方へ遊びに行って九時にかえって来るところ。私はフォンターネという十九世紀のドイツのリアリスト作家の「迷路」という小説を読み終って、さてとあたりを見まわしたが、お喋りがしたくなって。このフォンターネという作家は、訳者によってリアリストと云われているが、リアリスムは、ドイツではこういう身分にさからったことをすれば、結局不幸になる、という良識[#「良識」に傍点]を、菊池寛のように恋愛その他の生活法にあてはめてゆく態度に限られていたのでしょうか。ドイツのリアリスムというものに興味を覚えます。ドイツの文学史は知らないけれども。ゲーテ賞を(ノーベル賞なんかナチの文学者は受けるに及ばん。ゲーテ賞をやる、ということで)貰ったカロッサにしろ、医者として或点大変リアリスティックですが、いざとなると、永井潜先生に近づき科学と宗教的なものとをまぜ合わせてしまっている。フランスが文学に於て
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