いました。思うに私のやさしさの中には一匹の驢馬《ろば》が棲んでいる様です。幅の相当ひろい、たっぷりした、持久性のある光の波が、時々この驢馬のガタガタする黒い影で横切られたり、あばれられたりするらしい。しかし、この驢馬はね、消え得るもので、ぐるりの光のつよさと熱度に応じて総体が縮少しつつある。昔から驢馬には女が騎《の》りました。白い驢馬だったそうです。

 一月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 慶応大学病院より(封書)〕

 一月九日  第四信
 六日づけの第一信、きのう着。本当にありがとう。化物退治が成功したうれしさが、あのお手紙に響いているよろこびで倍々になりました。我々の頭の上は、天気晴朗であろうとも波浪は決して低からずと予想される時期に向って、腹中の妖怪を退散させたことは全く満足です。しかもこんな好結果で。経済的な点からもよい時期でしたし。
 きのうから、もうすっかり漿液の浸潤もなくなりました。きょうはどうかしら。まだ交換がないから、わからないが。今は小さな細長い消毒ガーゼをあてて、上から絆創膏を十文字に貼りつけ。
 ここまで書いたら朝の廻診になりました。木村先生入って来て、バンソー膏
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