ものは、男についても女についても、随分考えちがいをされ、低俗に内容づけられていますね。涙もろさ、傷つきやすさ、悲しみやすさ、そういうものがやさしさと思われているが、人生はそんな擦過傷の上にぬる、つばのようなものではない。人間は高貴な心、明智が増せば増すほどやさしくなり、そういう雄々しいやさしさというものは実に不撓《ふとう》の意志とむすびついて居り、堅忍と結びついて居り、しかもストイックでないだけの流動性が活溌に在る、そういうところに、本当のやさしさはあるのですものね。雄々しい互のやさしさだけが男を活かし女を活かすものです。いろいろ考えていてね、語るに足る対手としての最小限の発達線、進歩線と云われていた言葉を思いおこし、その言葉の底に、やはりそういう厳しいやさしさを脈々と感じました。私はどんなやさしさをもっているだろう、どのようなやさしさをあなたにおくっているだろう、そう考えて、永い間考えていた。威厳と(人間としての)やさしさとが耀《かがや》き合っていて、自分の人間としての程度が高まれば高まるほど恍惚とするような、そんなやさしさを自分も持っているだろうか。そんなことを永い午後じゅう考えて
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