六日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

  *二十四信という番号、とんで居りませんか?
 三月二十六日  第二十六信
 実に何とも云えずにやついて部屋掃除をやりました。たっぷり屋の御亭主というものは、と考えながら。読書のこと百頁が勉強[#「勉強」に傍点]にふさわしく、二百頁がんばれると(!)三十頁というのは、一方に書きものをもっての話と(!)にやつかざるを得ません。だって、私はまだ蝸牛《かたつむり》的テムポですもの、これから見れば。
 しかし、この頃は、ここに云われているように、文章に拘泥せず、全体をつかんで読んでゆくこつは些か身につけました。そして、丁度英語で読むときのように、全体としてわからせてゆくという方法で。今の私のもっている科学的素養では、いくらねちねちやったってわかる限度がきまっていて、今は今の網ですくえるだけ掬って、そう思ってよんで居ります。そして、こんな面白い本はきっと又何年か経って又よみかえすと又よくわかるようになっているだろうし、そのときは今引っぱっている棒がうるさくて又別の本が欲しいだろう、そう思います。暮頃よんでいたのは多く一とおりはもとよんだものでし
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