皆はナポレオンに投機して、ロスチャイルドの巨大な財産は将に破産に瀕する。番頭どもは兢々としている。が彼はあくまで強気で買いを通しているその緊張が頂点に達したときロスチャイルドは、いつものように上着の花へ顔を近づけようとする、花がない。その瞬間の複雑な、疲労の急激に現れた顔。そこへ従者が、妻からの小さい花を妻からの短い励しの言葉と共にいそぎ届けて来る。ロスチャイルドは非常にたすかったよろこばしさでその花をいつものように上着につけ、遂に素志を貫き、ナポレオンはウォータールーで敗れる。これには勿論マスコット風のしきたりやいろんなものが混ってはいるが、なかなか印象深い場面でした。
 大分お喋りをいたしましたね。
 栄さんがお母さんの七年忌でかえっています。繁さんが久しぶりで先刻よりました。七十円という服をきてへこたれています。この頃は紳士方は大変です、月給がふっとぶような服代になってしまった。いろんな詩の話が出ました。細君が日向の小石のような暖くて乾いてさっぱりした小説をかいていると、刺戟されて、詩のことをも十年計画で考えて、なかなか面白い。四十以後に傑出した作品を出している日本の詩人のないこ
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