ゃれ(!)のこと思うと私はふき出してしまう、茶外套の頃を思い出して。女の心持で云ったら一番おしゃれしそうなとき、ちっともそんなこと思わなかった。そんなこと思わないほど心持が一杯であったし、あの時分の一般の気分もそうであったし、面白いものね。このことや思わせぶりがなかったいろいろのモメントを考えて、いつもよろこばしくいい心持です。仕合わせを感じます。仕合わせというものの清潔さを感じます。そして、今、花の一茎もかざしたい、その心持も、やはり同じ自然さの一つの開花でしょう。あなたに自分の好きなものを着せるうれしさ。眺めるたのしさ。自分のために一寸おしゃれした気になって大いにはりきっているのを御覧になるおかしさ。
ロスチャイルドという古い映画ですが、イギリスの名優がやっていて、傑作でしたが、ロスチャイルドがいつも事務所に出かけるとき妻がボタンホールへ小さい一輪の花をさしておくります。市場などで、ちょいちょいその花の匂いをかいで、気の休まりを得ている。丁度ナポレオンに金を出す出さぬで猶太《ユダヤ》人であることからひどい罵倒をうけるが、人類の不幸のための金は出さないとがんばり通して市場へ行くと、
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