全さのためにも大切であることは明かで、そのために、十分の自覚をもつことは出来ないながら芸術の勘でそのことを感じている範囲の作家でも、或文学的苦境を感じているのが今日でしょう。あなたがここの点の多難性を芸術の本質と現実のありようとの関係に立って明らかに観て、ユリの勉強のむずかしさを考えて下さるのは、本当にうれしい。(当然であるけれども、あなたからすれば)ここいらのところに多くの複雑なものがこもっていて、云って見れば百鬼夜行の出発点ともなっているのですから。消してしまおうとするものによって消されてしまっては仕方がない。存在しようとする。その努力や摸索が見当をすこし違えると、「あらがね」以後のその作者になったりいろいろに変化《へんげ》する。全然ジャーナリスムとの接触を考えないということは、消しに身を呈することになるし。(仮令《たとい》最も作家として純真な動機によるとしても、現実の結果ではそういうこととして現われますから)生活上の必要もある。可能な、そして適した形と範囲とでその面での接触を保ちつつ、私としては長篇にしがみついて、折れども折れざる線を描いてゆくのが一番自然であろうと思われます。こ
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