す。力がこもって。川の水が流れるとき底の石粒に一つ一つさわってゆけるときいい心持でしょうね、そういう心持で書けました。
ここにはお茂登というおっかさんがいます。情のふかい、けなげな母親です。子供が出征して、寂しさで生活についても消極的な気分になるけれども、やがて子供の可愛ゆさで気をとり直し、子供のためにしゃんとして働いて生きて行こうという気になる母の心。そういう心持は、そとのこととして私を日頃感動させているばかりでなく、私の女としての骨髄をも走っている感情です。傷みを知らぬ気づよさ(一面の鈍さ)でなく、深く傷み、やがてその傷みから立ち直る生活の力。決して決して、肉厚なペンキ絵のようなヒロイズムではありません。惻々たるものです。小さいがテーマは確《しっか》りとしています、そして「小祝の一家」や「猫車」より心持が、すこしずつながら深められ、味が口の中にひろがるように、情感のひろがりがある(ように思われる。そのような気持で突こんでゆけたから)。
私がこんなによろこんで話すのは、こんなに底に触った心持で書け、そのような心持で書ける生活の心持がたっぷりとあること、それがうれしく、あなたにも、
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