の本の棚にあったのを覚えて居ります。ともかくこの人としての声の幅一杯に出そうと努力している。そこに読者をうつものがあります。第一巻の序に、種々の理由から全労作は収められなかったとことわられて居りますが。今日の最も良質の情熱は、沈潜の形をとっているのも興味ある点です。
 岩波の新書に武者の『人生論』あり、大して売れる由。どこでそうなのかと研究心を刺戟され、一寸よんだら一分ばかり常識をふみ出していて、しかもそれも亦よし式で方向がないこと、(読者を苦しませる)あらゆる読者がそこから自責とは反対の、自己肯定をひっぱり出すモメントに満ち、それを苦労なくオーヨーに云い切っているところで、売れるらしい様子です。武者式鎮痛膏ね。ではきょうはこれで。

 三月三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 三月二日  第十九信
 どーっと二階をかけ下りて行って、すんだ! と、ぺしゃんとあなたの前に座りたい。正にそのところです。今、四十何枚めだかを(まだ数えない)書き終ったばかりです。(終)と書いた紙をわきへどけて、これをひっぱり出したところ。
 よく底まで沈んだ気持で一貫してかけて、うれしいと思いま
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