つのものが一つしかよしんば書けないとしても、それはそれでよいと思って居ります。私にとってのねうちは、ちがうのだから。去年は毎日の出勤に全くなれていなかったことや内部的に整理されないものが少くなかったことや、体に虫をくっつけていたことやらで、毎日、出てゆくこととその後の印象の噛みかえしと、手紙とで過ぎた如くでした。が、それはやはりそれとして、実に収穫がありました。本年は一歩前進です。出かけて、そして書いて行きます。
    ――○――
 きょうは、よくお話しするバラさん(榊原)が来たので、あのひとは大塚から西巣鴨にかけての地理をよく知っているので、一緒に来て貰って、西巣鴨二、三丁目を随分隈なく歩きました。そして、何と皆それぞれ納っているのだろうとかこちました。そちらの向い側です、バスの通りを挾んで。それから、今度はそちら側にうつって、ずーっと池袋駅に出る迄の裏をさがしましたが、これもナシ。工場といかがわしきカフェーがちゃんぽんに櫛比《しっぴ》して居ります。鉄、キカイの下うけ工場があり、ゴムの小工場がある。昨日歩いたところとは同じ側のすこしずれたところですが。歩いて十五分―二十分ぐらいのと
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