うコワイコワイ目をしてあなたを見て平気でいて見たい(!)
 一婦人作家というのは、「木乃伊《ミイラ》の口紅」の作者のことでしたろうか。官能の面の解放者というのはどういうところでのことだったかしら。大正の文学におけるこの女作家の持っていた意味は、単に官能的描写にたけていたということではなくて、男とのいきさつに於て、女が女として自分の我を主張しているところ(官能そのものの世界においても)、しかもそれが我ままの形、身を破る的悲しき荒々しさにおいて出て居り、最も自然主義的な内容でも非理性的で生活も発展の形よりも流転の形をとったことに当時の歴史がうつっていると思われますが。この婦人作家が、その後、一方でよりひろい見聞にさらされつつ他方昔ながらのものに足をかけて生きているために、流転も往年より内容において複雑となり害毒的になり、破綻的となっている。プラスであろうとする側のもので緒口《いとぐち》がついた人的交渉をも、マイナスのもので潰して結局健全な部分(人間的にも文学的にも)からは全く離脱してしまう道どりは、現実の仮借なさを語っていると思われます。
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 十時に消燈がどうしてもおくれ
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