ついても大丈夫だったけれども。
 昨夜は、本当に楽々としていい心持で眠りました。そちらはいかがでした? あの小さいところが開いて、そこから溢れて私をつつんだ心持が、私の心と体とにずっと今ものこっていて、何とも云えず安らかないい心持です。私たちは互に顔を見合わせたとき、いつでもきっと、この前会ったときからのはっきりした心持のつながりの上で、合わせばすぐぴったり合う切りくちで、互に顔と顔とを合わせる。これは本当にありがたいことだと思います。きのうはうれしかった。けさ夢のなかで、私のてのひらがまざまざと頬の上を撫でて、近くある眼とその手ざわりに感動して、優しい呻り声をあげて目を醒しました。そしたら静かに雨が降っている。きょうはそういう工合の日。
 さて、私はいよいよ伝記の仕事にとりかかります。大変面白いものにします。いろいろな角度をこの評伝のなかに反映させ、最も豊富な人生と文学との流れの美しさで貫こうというつもりです。
 芸術の仕事は、勿論目前に読まれることが大事だが、読まれないからと云って何も変るものではないし、私は芸術の仕事にきのうきょうとりかかっているのでもないから、張り合いを失うとい
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