やっぱり第一に貴方に云いたいのですもの。
 この次お目にかかる時は、もう私はちゃんとした勉強にかかっています。気をひかしたりしないで、貴方に喋れるのは何といい心持でしょう。
 今のところ、ひさもいつかえるか(国へ)わからず、ずっと落付いて居ります。
 その後お体はどうでしょう、順調ですか。ひどい風の吹く季節もすぎ、きょうは荒っぽい天候だが、東の窓を机からふりかえって見ると、濃い鼠色の嵐雲の前に西日をうけた八重桜の花が枝もたわわに揺れて美しさと激しさの混りあった光景です。欅の若芽も美しく北窓から見える。今年私たちは恒例のピクニックもしなかったら、この頃健坊たちがしきりにどっかへ行こうよと云うので、多分来週の日曜日にはどこかへ奥武蔵辺へつれて行ってやることになるでしょう。
 親たちと私とは一昨日春陽展を上野で見ました。木村荘八、中川一政、石井鶴三、梅原龍三郎の諸氏の画境について、実に何とも云えぬ印象をうけて来ました。中川一政の昔の画集に巣鴨の昔のそこの附近を描いたものがあったりして独特の味をもっていたが、この数年尾崎士郎や芙美子女史の芝居絵のような插画を描きまくっているうちに、画技は衰え、
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