ときもある。私はその渦やそのすき間を、感覚にまで浸透して感じ、目撃することの出来るのを、おどろき、うれしくありがたいと思う。これは、七日の貴方の非常に優れたおくりものに対する謙遜な妻の礼手紙です。では又ね。
四月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
四月十八日 第十八信
さて、この間九日に手紙を書いて、きょうは九日目。手紙を、あれを終ってからさっぱりとして湯上りのようにあなたに書きたいと思って、きのうも一昨日も、ああ書きたいと食慾のように感じながら辛棒した。
この手紙はそれで、今、私への褒美《ほうび》というような工合で書いているのです。
それでも、私はやっぱりやり通してしまって、一種の満足があります。丁度家の掃除をせっせとやってやれいい心持と感じているような工合で、大して自慢するようなたちのものではないけれども、やっぱり一つのことを仕終ったという快さはあります。貴方に云われたいろいろのことを非常によく身に泌みているので、決して洒々といい心持がっているのではないから、この一寸した満足感を喋るのだけ何卒《なにとぞ》苦笑して黙ってきいていらして下さい。私とすれば、
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