gに主として向っているのであるから。ある閃きの様々な色としてでなく、真面目な問題として、地味にどの程度書き得て来ているかと考えると、疑問になる。文学や生活について自分の感想として押し出されていることは、少くないであろうし、一貫したものもそれぞれの断片中に汲みとれるだろうとは思うが、基本的な調子に於て、果してどのようであったろうか。自身の成長のためにこのところは執拗に、意地わるく追究しなければならないと思う。それは手紙は相対的なもので、ましてや生活の条件から、そこには様々の音響が底に響かざるを得ず、日常生活の間では、例えば一寸した廊下でのすれ違いの互の眼差しで語られる心持のニュアンスも、何かの字で、何かのトーンで伝えられようと渇しているために、直接そのものとして表現する趣味まで低まらない限り、全く客観的なことにそのような気分が伴奏することが多い。情緒的なものは、それとしての消長を自然にもっていて、その生活の間である真面目なことをとりあげて話す調子とはどうしても違う。同意を求める感情にしろ、淡白ではあり得ない。非常に深く感性的なものにまで常に触れて行くのである。
 だが、自分が漠然感じているこの疑問は、それだけでは解釈され切らない。愛情による身ぶりと共に、何か意識されぬ計画されぬ精神的な媚態がありはしなかったのだろうか。ここは微妙だと思う。微妙なところで生粋なる愛情と界を接し、うちまじり、とけ合っているから、切りはなすのは一つの冒険のようでさえある。このような微分的追究に耐える理性と感覚とを信頼して、初めて表現する勇気をも生じるのだが。
 自身の心を強くつよく貫いているよろこばせたい心持、安心させたい心持、自分が愛するものを我が宝と思っている、そのような心で自分をもうけとって欲しく望む心。これが、どのような源泉から出ているか。もとより愛からと云う答えは一般に通用するというより以上実体にふれている。確かに愛から。そして又対手の人生を高く評価していることから生じている。その評価への絶対の信頼によっている。けれども、そのよろこばせたさ、安心させたさが、確信され確保されている真の安心の上に悠々的に発露しているものか、それとも、例えば子供が一つ木にのぼると、勇んで下りて来て、母さん僕木へのぼったよ、と報告せずにはいられない、そういう種類のものか。なかなか興味ある心理だと思う。明かに、自分は愛情に加うるに一目をおいたものをもって対している。非常に一目おいている。それによって、どちらかと云えば極めて従順な心をもっている。しかし、生活の他の一部には、自分として、決して自信なくはない。狙撃的目標として悪く耐えて来ているとは思っていない。これが面白く作用して、大変おとなしく従順であるのに、あるところまで埋ると、何かがんばったようなものが出て来るのではないかと考える。同時に、謙遜な心を十分に認めて欲しさも錯綜して、ある事について語る文調に、内輪な響きより張り出したトーンの方が響き、いつしか一つの精神的な媚態となるのではないだろうか。そして、音響学の原理を考えれば、張り出した響きが出れば出るほど、空間がひろいということになる。一目をおいた気持が決してそれなり通過しない点があると思う。
 それから又、自分は本来相当甘えん坊でもある。天真爛漫甘ったれたい。この甘ったれたさと精神の緊張力とは比例的で互のつよさでバランスしている。相互のリズムが交って生活に弾力を与えている。このことも、やはり何かの形で、語りかたに影響を与えるであろうと思う。そのようないろいろの要素をむき出しにそのままぶちまけず、何かに托す習慣になって来ていることが。感情は激しく溢れんと欲する。素朴な動作で。そのような瞬間、そのまま書いたってウワことである。何かつかまえて云わなければならない。感情の表現が、文字でしかないこと。これは我々の生活上実に実に大きい意味をもっている。幸ある表現力をもっている。其故書いて、書けたようにも感じるが、その書きかたにはいつしか文字でしか書けぬ書きかたが働いていて、耳に入る言葉や動作の動物的な要素、感覚を流れ洗うものが減って、感情さえ理づめになり、やがて又そこを破りたい欲望がロマンティックなものとなっても現れるのではないだろうか。
 自分はこれから手紙のかきかたについてもっと考えようと思う。もっともっと、意味をつけないお喋《しゃべ》り、ホーそうかい、そう思ってよんで貰っていいお喋り、と、それから重大な考えるべき問題をふくんだものとはっきり区別をして。島田にいるとき自分の書く手紙、目白にいて自分のかく手紙、父がいた時分の自分の手紙。それぞれを比べて思い浮べて見ると、何と違うだろう。島田にいるとそこには私たちの生活というものが殆どなくて、ああいうこと、こういうことがあり
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