驍ェ、私には駄目。だが、この頃はフランス語とドイツ語少々よめないとつまりません。すこし読みなれたら私流によめるのではないかとも思います。イルマさん(是也の細君)ならいい先生だろうが豪徳寺ではね。鶴さん外語のドイツ語の夏期講習に通っています、感心です。除村さんは親切にやると露語をうけている人が云っていた。これから火野氏の「麦と兵隊」をよむ。ではまた。あした雨でないと布団をもってゆくのだけれども。寝冷えをなさらないようにね
八月四日夜 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
八月四日 第三十九信
昨夜から書きかけていた手紙があったのだが、それはやめてしまって別にはじめます。きょうのことは、本当にわるうございました。いろいろとさぞおいやだろうとすみません。ユリは、もとよりあなたの体のことは実に実に思っているのだけれども、又一方ではそれよりほかのこともわかっているつもりです。だから、時によっては、その心痛をどんなに努力してもちこたえるかということは、この一年半の経験でよくわかって頂いていると思います。体のことについて世俗的な女房風なはからいをやろうというようなこせついた魂胆はなく、単純にかんちがい納得ちがいをしたのです。そして、自分でそう合点したので却っていやに手とり早いようなことをやって、やっぱり女房並にアンポンであるようで本当に辛い。あなたとして仰云るとおり勘弁するもしないもないとしか云いようがないでしょうが。きょうはかえりに悄気てかえった。悄気て風の吹く原っぱのところをかえって来た。今も悄気がぬけない。あした顔を見たらぬけるかしら。あしたもしあなたのいやさも増していたらと閉口した心持です。ちゃんとあなたのなさる通りにと思ってわざわざ訊いて頓馬をするなんて何て頓馬でしょう。ここではこまかく申しませんが、自分の心に対して辛辣な気持をもちます。頓馬をされてあとであやまられるなどということは馬鹿らしいことであり、下らなく腹立たしいが、どうか堪えて下さい。用事についての話しかた、私としての念の押しかたの呼吸、要点が痛切にわかりましたから、これからは決してそういう混乱はいたしません。残念でたまらないところがある。
――○――
本のリストらしい[#「らしい」に傍点]ものを同封します。これについても大して威張れない工合ですが。
大判の大学ノートに線をひいて、日づけ、書名、状態をかきこむようにしました。そして差入の紙や何か入れてある大箱へはり紙と一緒に入れておいて、すっかりちゃんとやります。注文の部、こちらから入れた部、かえって来た部(購求のものもそのときしるしをして)と三つに分けて書いたら、其々わかりやすいでしょう。これからはその帖面をもち出します。
――○――
いろいろとお喋りしたかったのだけれども、今夜はそんな元気がないから、又。
屋外燈管制が今夕からはじまって、電車は、ものの読めない暗さで走っているそうです。竜頭蛇尾ということには謂わば芸術的に云ってさえ美がない。だから全く全く恐れ入って小さくなっている。
一九三七年五月十四日づけ *購求
『ゲエテとトルストイ』┐
『大地』 │読了のもの
『外遊断想』 ┘
『日本統計図表』 ┐
『近世日本農村経済史論』│注文
丸善目録 ┘
スタンダール・独歩(*ともに不許)
六月五日づけ
*『戦略・戦術論』 ┐
*『エッケルマンとの対話』│
*『絵のない絵本』 │購求読了
*『蒙古』 │
*『軍縮読本』 │
*『ロシア語四週間』 ┘
『文芸年鑑』 ┐
『プーシュキン全集』┘差入
六月十六日(巣鴨へ引越しての第一信)
ドウデンの『図解字典』(中野から)
七月二十七日づけ
原博士『肺病予防療養教則―かくの如く養生すべし』
不如丘『療養三百六十五日』
新潮『結核征服』
長崎書店『療養夜話―胃腸病の新療法』
八月十六日づけ
○この手紙に本のことはなかった
○この間に手紙なし
十月四日づけ
南江堂『結核及びその療法』読了
『ダイヤモンド』九月一日(注文)
十一月二日づけ
ユリの古い本読了(『貧しき人々の群』『一つの芽生』等)
『秋風帖』
十一月十八日づけ
『日本風俗画大成』二冊(了)
「フランス通信」┐[#ここから2行の}は連結]
「東西雑記帳」 ┘購求
十一月二十五日づけ
『その後に来るもの』 ┐
『支那は生存し得るか』┘購求
十一月三十日づけ
「朝日」「毎日」年鑑購求
十二月二日づけ
『二葉亭全集』目録 差入
ピリンガム『支那論』 購求
一九三八年の分
『真実一路』(すみ、かえる)
*『科
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