が林町のうちでフランス語の稽古などはじめているのではなくて、Xがよそで稽古をDさんにして貰っていて、私はその教科書を買ってやり、その本がテーブルの上にあったもんで、あんな格言なども引き出したということが、はっきりあなたにはのみこめないようにしか、書かなかったのかしら。可笑しいような、腹の立つような気がしました。そして、実は、貴方の方に読みちがえというようなことは絶対にないもののように、ひた向きに考えこんでいる自分も一寸おかしかった。だって貴方だって――南天を御存知ないみたいなところがあるんだもの。
 林町の家の建直し(建築)は目下材料高騰で一寸見合わせですが数ヵ月うちには着手されます。正月早く、あなたには突然のように私が引越したのは、Nが正月頃傾向がわるく家をあけ(飲んで)そういうときは私が煙ったく、煙ったいと猶グレるので、Kのやりかたがむずかしいこともありありと分って一層早くうつったのでした。この目白の家が割合よかったこともあって。ここは、先の家の一つ先の横丁を右に入った右の角のところで、小さい家です。でも、夕刻晴天だと富士が見えます。交通費がやすくすむので何より助かります。バスで裁
前へ 次へ
全235ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング