qの茹《ゆ》でたのをもって池袋へ出かけたら、戸塚の子供二人が母さんをひっぱってピンつくやって来た。
 朝霞はいかにも平凡であるが武蔵野の起伏をもった地形で、薯掘りはおどろくなかれ、そこにある寺が世話やきなのです。バスに一区のって山門の石の標《しるし》が見えるところへ来ると、左手の広い畑の面に一ヵ所こちゃこちゃ色とりどりの人間のかたまりがある。薯掘りなのです。山門を入ってゆくと、そこの亭《ちん》、そこの松の木の下に棧敷をはってフタバ幼稚園、何々小学校、特殊飲料組合とびっしり。本堂の右手に紙を下げて薯掘案内所。一坪十六銭。うねが一本の三分の二位。私たちはそういう休処へはわりこめないから、石段を下りて名ばかりの滝のあるところに丸髷の百姓小母さんの出している茶屋の床几を二つくっつけてそこで休んでお握りをたべ、実に呑気《のんき》で、間抜けピクニックなところに云いがたい味があって、神経の大保養になりました。やがて又山門の外へ出て、畑道をゆき、薯掘りにかかったが、井汲さん親子一生懸命掘るわ掘るわ。健造も面白くて二坪買ったのでは掘りたりなく、じゃあもう一坪買っておいでと云ったら、ありがてえなアと云った
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