ニしてその中に主観的に没入することは一定の情熱の量をもったすべての過去の芸術家が生きふるして来た道です。謂わば息絶えなんばかりの心持を、新しい客観的な価値として、芸術的にこの現実の中に再現してゆくこと、其は実に実に大仕事です。
本当に、昔の芸術家の感動はその人だけの幅で流れた。今日は世界の振幅をもっている! この幅、つよさ、錯綜、それが一人一人の中に鳴り響いている、その姿を描くこと。やっとそろそろ鳴り出した私の交響楽はどこまでその響かすべき音響を奏し切るでしょうね。
十月一杯に五十枚ほど今日の文学について書くことがあり、それを終って又小説にとりかかります。長い小説というものはまことに書くべきものです。その中で作家は成長し得る。
お体について、私は最も苦痛な心配というような気持をここの峠ではのり越えたような気分です。これから無理さえなかったらやや平穏ではないでしょうか。あの暑気であったもの、たまったものではなかったのです。冬は却ってましです。風邪さえひかないようになされば。
私は今あなたからの手紙を、この紙に半ば重ねるようにして左手に並べておいて、読んでは書き、書いては読んでいる
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