髏が噴水のように粒々となって、ひろびろとして或微妙な輝きをもって照っている水の面へ落ちてくる。その複雑な、優しさと勁《つよ》さと無限の的確さをもった粒々の音。心の耳を傾けて聴けば聴くほど美しさの底深さが迫って来るような音とひろがりの感覚。この裡には何という歓喜と苦痛とその苦痛さえも熱愛する情熱がこもっていることでしょう。私は、この名状しがたい感覚を、自分の芸術家としての成育の上にどこまで摂取出来るだろうかと思うことが屡※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》です。何故ならこの緊張したその極点にあって鳴り出すような人生の美感はあまり強くて、それを芸術家魂で支えるには、よほど素晴らしい芸術的稟質が必要であるから。おわかりになるでしょう?
 ユリがこのような人間的豊饒さへの過程と作家的成熟とを、一定の土台の上に立って極めてリアリスティックに、十分の歴史性をもって客観的に完成させようと努力していることは。そして決して其はたやすいことではないのだから。容易に完成するには余り私たちの生活に豊富なものがありすぎる。それにおしつぶされないように。おお、それは迚も猛烈な作家的自己鍛練です。感動を感動
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