ェわるかったとしきりに云って居ました。
ああ何と風がひどいでしょう。書いている紙の上に天井の塵がおっこちる。では又書きます。医術の本でも何だか苦笑し腹の立つような非科学的な類別をする者がありますね、南江堂の本の終りの部分[自注17]。呉々もお大切に。酸っぱい果物がよくないことは知りませんでした。
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[自注17]南江堂の本の終りの部分――南江堂出版の結核に関する医書に、思想問題をおこす人間は多く結核患者だという独断が書かれてあった。
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九月十七日午後 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
九月十七日 第三十一信
きのうは本当にいろいろと、ほんの一寸した小さな事柄まで珍しく嬉しく、そのうれしい波がきょうまでも響いて体の中に流れているようです。久しぶりであなたの身ごなしに特徴である闊達な線の動きも美しく見えてつよく印象にのこります。一昨日は非常に苦しい心持であの壁の外からひきかえしたので、どうしても真直家へ引かえす気がせず、戸塚へまわって、防空演習の暗い灯の下で白飯をたべてかえった。昨日は朝七時半から出かけていて、一昨日の気持
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