フつづきで、すこし気の晴れる方向へ事が進んだので、どうしても一寸よって見たく雨のひどい裡を行った。でも本当にびしょぬれになった甲斐があってうれしかった。かえりに又長い長い高壁に沿って、ザッザッと傘に当る雨の音をききながら歩いていて深く一憂一喜という心の動きかたを感じました。勿論其は当然であるけれども。しんでは安心して居ると云うか、何かともかく不動の土台がある。しかしその土台に、殆ど高く鳴り響く波動を打って苦しい心配やその心配をめぐっての様々の考えやが動く。土台はそれでもわれることはないので凝《じっ》としたまま益※[#二の字点、1−2−22]激しくつよくその波動にこたえてゆく。この感情は人間に日常的な時間の観念を失わせ、日常の社交性を失わせるようなものです。
けさは、きのうのつかれが出て、九時に一度目をさましてから、又ベッドに戻って心愉しさの中で可笑しい夢を見て、その夢の中ではあなたの肩と横顔と目差しばっかりを見ました。あなたの紺絣を着た肩のまわりには、あなたを歓迎している人たちが沢山居て私はこっちから近よれない、あなたはこっちをちょいちょい御覧になる。そしてそこは田舎でね、馬蹄型の山
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