途中まで行くから、一緒に行らっしゃい」
左手に黒々と巖山が聳え、駅を出てそこを歩いて居るのは僅か三四人であった。巡査の白服が夜目に著しい。追いついて又宿を訊いたら巡査は当惑して立ち止った。止ったところの左手に真暗なトンネルが入口を見せて居る。そこを抜け、まだ遠く歩かねばならないのであった。
巡査と共に立ち止った人中に、一人の漁師が居た。
「俺がぐるりと廻って連れてってやるべ」
漁師の後から歩み出し、トンネルに入った。始め人家の灯で、黒白縞のドガのような漁師の着物の脊中が見えたかと思うと忽ち闇に吸い込まれた。彼は跣で跫音はせず、令子の下駄だけがトンネルの中で反響を起した。やがて、出口からの光でぼんやり漁師の頭の輪廓が見えるようになった。
開いたところへ出ると、令子は飢えたように空を仰いだが、月は雲の裏にあった。薄明りが、草原と、令子と漁師の歩いている路を照して居る。又トンネルがあった。短いトンネルであった。虫の鳴く音や、自分の下駄の音が、一つトンネルを抜ける毎に、新しく令子の耳についた。
又長いトンネルがあり、つづいて雨よけのさしかけのようなトンネルがあり、つき当りにやっと、鵜
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