家庭を様々な形に崩壊させて行くのである。そして、敵は抜目なくその間から自身の利用すべきものを掴むのだ。
向い合って坐っていた女給が突然、
「いやァ! こわい!」
と袂で顔を押え、体をくねらしたので、自分はびっくりして我にかえった。
「どうしたの?」
「だってェ……あんた、さっきからおっかない眼つきして、私の顔ばっかり見つめてるんだもの……」
「そうだった?」
思わず腹から笑い出した。自分は、ただいつの間にか一ところを見つめていたばかりで、それが誰かの顔だか壁だか、見ているのではなかったのであった。
女が三人ばかりで眠っていると、ガチャンとひどい音を立てて監房の扉があき、
「ソラ、はいった、入った」
と面倒くさそうに云っている看守の声、何か押しかえして扉のところに立っている気勢がおぼろ気に感じられた。瞼をとおして、電燈の黄色い光りを感じ、もう一度、隣りの監房の開く音をきいた。誰か入って来たな。そう思い、体を少しずらせて場所をあけ、そのまま又眠りつづけた。(留置場生活が永くなると、特別な場合でない限り、眠ってから入れられて来る者に対して、無頓着に、幾分迷惑にさえ感じるのであった。)
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