朝になった。一番奥のところに昨夜入れられて来た若い女が、頬ぺたを濡手拭で押え、房さり髪を切った体をちぢめるようにして起き上っている。布団を畳む時、女給が、
「あのし[#「し」に傍点]と、ひどいけがしてんのよ」
といやらしそうにこっそり云って、せっせと臭い布団を抱え出した。蒼ざめた細面で立っている全体の物ごしで、すぐ左翼の運動に関係ある人と感じられる。
「けが?」
「…………」
合点する。傍へよって見て、これはひどい。思わず口をついて出た。
「やられたの?」
合点をし、微《かすか》な笑いを切なそうな眼の中に泛べた。白っぽい浴衣の胸元、前と、血がほとばしってついているのであった。
「――どうだね」
よって来る看守に向い、その人はやっと舌を動かして、
「医者よんで下さい」
と要求した。
「化膿しちゃうわ。……歯ぐきと頬っぺたの肉がすっかり剥《はが》れちゃってるんだもの」
「……詰らんもの呑んだりするからえげ[#「えげ」に傍点]ねんだ」
「――医者よんで下さい。ね」
「話して見よう」
薄手な素足でこっちへ来て坐りながら、
「下剤かけるかしら」
やや心配気に訊いた。私も小声で、
「
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