刻々
宮本百合子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)彼方此方《あっちこっち》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)半面|攣《つ》れたような
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
−−
一
朝飯がすんで、雑役が監房の前を雑巾がけしている。駒込署は古い建物で木造なのである。手拭を引さいた細紐を帯がわりにして、縞の着物を尻はし折りにした与太者の雑役が、ズブズブに濡らした雑巾で出来るだけゆっくり鉄格子のこま[#「こま」に傍点]一つ一つを拭いたりして動いている。
夜前、神明町辺の博士の家とかに強盗が入ったのがつかまった。看守と雑役とが途切れ、途切れそのことについて話すのを、留置場じゅうが聞いている。二つの監房に二十何人かの男が詰っているがそれらはスリ、かっぱらい、無銭飲食、詐欺、ゆすりなどが主なのだ。
看守は、雑役の働く手先につれて彼方此方《あっちこっち》しながら、
「この一二年
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