止って、グルリと平手で五分苅頭を撫で、
「――会いますか」
 厭《いと》わしさと期待の混り合った感情が自分を包んだ。
「会いましょう」
 コンクリートの渡りを越え、警察の表建物に入ると、制服巡査が並んで、市民の為の[#「市民の為の」に傍点]事務をとっている。その横に署長室がある。
 ドアをあけると、署長の大テーブルのこっち側の椅子に母親が腰かけている。ドアが開くと同時に白い萎《しぼ》んだ顔を入ってゆく自分に向け、歩くから、椅子にかけるまで眼もはなさず追って、しかし、椅子にかけている体は崩さず、
「……どうしたえ、百合ちゃん……本当にまァ……」
 主任は、爪先で歩くようにして室の角にかけ、此方を見ている。署長は、大テーブルのあっち側で、両手をズボンのポケットに突こみ、廻転椅子の上に反っている。
「どうですね」
「ええ。……体はどうなの?」
 自分は真直母親と口をききはじめた。こういう場面で母娘の対面は実に重荷であった。我々母親は十何年来別々に暮して来ているので、警察で会っても二つの生活の対立の感じは、消すことが出来ないのであった。
「どうやらこうやってはいるけれどもね」
 まじまじ自分を
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