とやって見せたりして、猿をからかうように留置人をからかうのであった。そのために、吸いもせずにくたくた古くなったバットを二本、いつもニッケル・ケースに入れてもっているのであった。
「チッ! いけすかない!」
 空巣の加担をし※[#「貝+藏」、429−14]品を質屋へ持って行って入れられている五十婆さんが舌うちした。
「あたし、世の中にこういうとこの人《しと》たちぐらいいやな男ってないわ」
 横坐りをしている若い女給が伊達巻をしめ直しながら溜息をついた。
「刑事なんぞここじゃ横柄な顔してるけど、お店へああいう人《しと》が来ると、まったく泣けるわ。そりゃねちねちしてしつっこいのよ。つんつんすりゃ仇されるしさ、うっかりサービスすりゃエロだってひっかけるしさ。――お店だってよくかり倒されんのヨ」
 引っぱられて来るのは女給が一番多く、そのほかでも、話を聞いて見ると八割までは、媒合、売淫、堕胎など、資本主義社会における女の特殊な不幸を反映しているのであった。

 呼び出されて、いつも通り二階へ行くものと思っていたら昇り口を通りすぎ、主任が先へ歩きながら、
「おっかさんが見えてるんだが……」
 立ち
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