出ていたかと繰返し訊いた。自分は覚えていない。
「――柳瀬が出ていた筈だ……」
「私は元来美術家同盟では知らない人ばっかりだから分らない」
 清水は無骨な指でひろげた号外をたたきながら云った。
「……いや、皆わかってはいるんだがね」
 それからさりげなく、
「是枝操に会いましたか?」
と訊いた。
「……文化団体の人ですか」
「そうじゃない、是枝恭二の細君だ」
「知らないな」
「ふむ」
 改めて、
「この、君の文章の中の『この地球はじめて人間らしい憲法がつくられた』とか『勤労大衆の代表と社会主義社会建設の闘士を選べ!』とか云うのは、どういう意味なんだ」
と詰問した。自分は、
「どれ、一寸見せて下さい」
と注意ぶかくその部分を読みかえして見た。
「……非常にはっきりしているのじゃないかしら。――ソヴェト同盟ではこうであると事実を云っているのだから……」
「日本の労働者は、じゃアどうしろという意味なんです?」
「この記事は、それを扱っていませんね」
 啓蒙的な記事としては、そこが欠点であった。自分はそう思うのであった。
「大体、こんなもの[#「こんなもの」に傍点]に書くという法はないじゃない
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