別神経過敏で、警官を半数ずつトラックに載せて一時間おきにつみかえ、待機[#「待機」に傍点]するようにという説があった。しかし、それも余り仰々しいというのでトラックを準備するだけになった。看守が疲労で蒼くむくんだ瞼をし、
「……トラックにのっているはええが、交代の時分にはいずれのったものが降りにゃなるめ。そのとき事件が起きたら、どうするね」
これには監房じゅうが笑い出し、実に大笑いをした。
五分苅の、陸軍大尉のふるてのような警視庁検閲係の清水が、上衣をぬぎ、ワイシャツにチョッキ姿でテーブルの右横にいる。自分は入口の側。やや離れてその両方を見較べられる位置に主任が腕組みをしている。
「編輯会議にはあなたも出ていたそうじゃないか、ほかに誰々が出ていました?」
日本プロレタリア文化連盟では二月選挙のとき「大衆の友」の号外を発行し、ブルジョア選挙のバクロと階級的候補者支持、選挙をどう闘うべきかということのアジプロを行った。その号外がテーブルの上にひろげられている。自分は署名して、ソヴェト同盟の婦人と選挙活動のことを書いているのであった。清水は日本プロレタリア美術家同盟(ヤップ)からは誰が
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