感じであった。しかも留置場内は、いつもどおり薄らさむくしーんとしている。鉄格子の中の板の間では半裸で、垢まびれの皮膚に拷問の傷をもって、飛行機の爆音の下で虱狩りをしている。――
 帝国主義文明というものの野蛮さ、偽瞞、抑圧がかくもまざまざとした絵で自分を打ったことはない。自分は覚えず心にインド! 印度だ、と叫んだ。インドでも、裸で裸足の人民の上に、やはり飛行機がとんでいる。人民の無権利の上に、こうやって飛行機だけはとんでいるのだ。革命的な労働者、農民、朝鮮、台湾人にとって、飛行機は何をやったか?(台湾霧社の土人は飛行機から陸軍最新製造の爆弾と毒ガスを撒かれ殺戮された。)
 猶も高く低く爆音の尾を引っぱってとんでいるわれわれのものでない飛行機。――
 モスク※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]のメーデーの光景が思い出され、自分は濤《おおなみ》のように湧き起る歌を全身に感じた。
  立て 餓えたるものよ
  今ぞ日は近し
 これは歴史の羽音である。自分は臭い監房の真中に突立ち全く遠ざかってしまうまで飛行機の爆音に耳を澄した。

 三畳足らずの監房に女が六人坐っている。売淫。堕胎。三人の年
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