うものに就て深く憎悪をもって感じた。
留置場ではそろそろ寝仕度にかかろうという時刻、特高が呼出したと思ったら、中川が来ている。当直だけのこっているガランとした高等係室の奥の入口のところに膝を組んでかけ、煙草をふかしていたが、自分が緒のゆるいアンペラ草履をはいて入って行くなり、
「――どウしたね」
尖った鬼歯を現してにやにやしながら顔を見た。つづけて、
「いよいよ二三年だよ」
自分はまだ椅子にもかけていない。メリンスの小布団のついた椅子にかけながら、(主任の椅子の小布団は羽織裏の羽二重だが、他の連中の小布団は一様にメリンスなのだ)
「何なんです?」
と云った。
「書いてるじゃないか」
「何を?」
「――非合法出版物へ書いてるじゃないか」
「知らない」
「だァって」
中川はさも確信ありげに顎でしゃくうように笑って、
「現に君から原稿を貰った人間があるんだから仕様がないじゃないか」
「……そりゃ今の世の中には、いろんな種類の月給を貰っている奴があるんだから、そんなことを云う人間があるかもしれない」
蒼い中川の顔が変った。
「そりゃどういう意味だ」
「…………」
「とにかく、君達の同
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