でも、私何ていわれたってかまやしない。本当に何も知らないんだから……」
そして私に向い念を押すようにきいた。
「――組合に入ってなければ大丈夫なんでしょ?」
「組合に入ってたって悪かないじゃないの」
しかし、自分は娘さんの調子が心もとなくなって云った。
「……組合に入っていないにしろ、ストライキのときはあなたの要求だってみんなと同じだったからこそ闘ったんだから、今更誰が組合に入ってたなんて余計なことは云いっこなしだわね。いい?」
「そうね」
合点をした。娘さんは××高等女学校出身で、ストライキのときは大衆選挙で交渉委員の一人であったのだそうだ。
今日は駄目だろうと思っていると四時頃やっと労働係が来て娘さんを出した。暫くして今度は自分が高等によび出され、正面に黒板のある警官教室みたいなところを通りがかると、沢山並んでいる床几の一つに娘さんがうなだれて浅く腰かけ、わきに大島の折目だった着物を着た小商人風の父親が落着かなげにそっぽを向きながらよそ行きらしく敷島をふかしている。
父と娘とがそれぞれ別の思いにふけっていた様子が留置場へ戻ってからもありありと見え、自分は警察と家族制度とい
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