が、ところどころ突ついたきり、湯ものまぬ。
午後第一房の強盗が保護室へうつされ、数日ぶりで自分たちは監房へ入れられた。
娘さんは、帯もしめたままなので段々気がおちつき、
「警察なんて人ばっかり騙《だま》してる!」
そして、ひそめた声に力を入れ、
「ね、一寸! どうしましょう、憎らしいわね。今朝みんな家でやられたのよ。さっき電話で、二十何人とか云ってたわ……皆をやったんだワ。会社じゃストライキのとき犠牲者は出さないって要求を入れときながら、この間っからドンドン新しい人を入れてたんですもの。ぐるなのね。これでクビにするなんて、卑怯だわ!」
会社は、ストライキをやった従業員を職場からだと目だつし、それをきっかけに又他の従業員が結束するとこわいので、各住居地の所轄署を動員して今朝一斉に切りはなして引っぱらせたというのが実際の情勢らしかった。
留置場の弁当では泣き出しながらも会社のやり口は見とおし、
「――一ヵ月ぐらいたってみんなの気がゆるんだ時があぶないって、そ云っていたけれど……全くだわね」
とつくづく考える風であった。やがて坐りなおすように銘仙の膝を動かして娘さんは呟いた。
「
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