思い起させた。
 小関は、いつも健介夫婦の左側に立ち、少しずつ先に歩いて行く。
「足元が暗うござんすよ。――ここが、所謂公園ですな」
 そう云われて見ると、なるほど、躑躅《つつじ》などの植込みを縫う小径や、あっちこっちの空地には、大勢浴衣がけの男女が用もなさそうにぶらぶらしている。白い単衣の背中だけがぼうっと見える木蔭で、パッと燐寸《マッチ》をする。狭い灯かげで、若い者が五六人顔をつき合わせてしゃがんでいるのが見えた。そうかと思うと、何に使うか大きな材木をたくさん積み重ねておいてある上に腰をかけて、さも一大事が起ったらしく、男と女が人目もかまわず月光を浴びて囁き合っている。おせいは、物珍らしいと同時に、一種名状し難い気づまりを感じた。通る女も、彼女のように重くるしい装のはなく、皆派手な湯上りか何かで、さらりと素肌に風を入れて行くのである。
 薄暗い処を抜けて、また一つの通りに出ると、おせいは始めてややほっとした。
 ここでは、往来が、両側の店舗から流れ出す燈火で、如何にも夏の夜らしくきらきらと輝いている。中央に、市が立っている。通りはおのずから二条に岐《わか》れて、子供連れだの夫婦づれ
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