受けます。近頃喧しく種々のことを云ったり書いたりする人もあるらしいが、読んだって貴女どこのどんなものだか、外側も知らないじゃあ、話にもなりますまい。またという時はないもんだから、お伴しようじゃあありませんか」
 躊躇しているところを口々に勧められ、おせいは、好奇心の動くのを感じた。全く違った山の手に子供のうちから住み、そんな処にはまるで縁なく育って健介の妻になった彼女には、また何時そんな折があるかも分らなかった。
「……行って御覧になりますか?」
 彼女は、若し健介がいやだと云えば、忽ち断る積りで夫の顔を見た。
「物好きだね。――じゃあ御面倒をかけますかな」
 小関は、如何にも自分達の申出が受けられたのを喜ぶ風に見えた。
「いらっしゃいとも。何にせ東京名物の一つですからね」
 中腰になっていた彼は、立って、せかせかと薄羽織を着た。
「こういうお伴は、大好きですよ。いつだって十一時過頃まで、どこを歩いて来るんだか、ブラブラ出てばっかりいるんですからね」
 おふゆは、後に廻って夫の羽織の襟などをかえしながらおせいを見、肩をすくめて笑った。
 道を歩きながらも、小関が、まるで自分の財産の自慢
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