品を買いに出て、戻って来たのだろう、突っ立ったまま、
「今夜は午市《うまいち》なんだねえ、随分外は賑やかだよ」
と息を弾ませて報告した。
「おや、そうかえ。ちっとも知らなかった……」
挨拶の中途の、膝をついて息子を見上げていたおふゆは、それで俄に思いついたというように、おせいの方を向いた。
「丁度いい塩梅だ。行って御覧なさいませんか?」
「ああ、そりゃあいい。午市というのはね」
小関も辞儀をやめにして健介に説明した。
「なか[#「なか」に傍点]に立つ夜市でしてね。植木や何かが主なんだがなかなか盛んなものです――それに何でしょう?」
彼は、健介夫婦を見くらべながら、にやにやした。
「お二人ともあんな処へは足ぶみもなさらないんだから、ついでにずうっと一廻りして来るとようござんす」
「……さあ」
健介は、おせいと顔を見合わせるようにして笑った。
「どうしますかね?」
おせいも、何だか変な心持がした。行って見たいような、また不気味なような。――彼女は、何ということもなく間の悪い心地がした。
「私はどちらでも……」
「一遍は見てお置きなさいましよ。話の種ですわよ」
「御案内役は、私が引
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