問題」とし、同性の「問題」として、考え論究している種々な女の人々は、自分の眼で、この格子と、絵姿と、奇妙な静寂を見た時、どんな心持に打れたのだろう。
 おせいには、これらの光景から、何か纏り、組織立った考えが照り返して来るのは、二分も三分も、或は一日も後のことらしく感じられた。
 何か読んだものや、聞いたことから、頭で拵えた観念を抱いて来ない以上、素直な心で、この有様を見たら、先ず、これが真実、自分と同じ心を持ち、自分と同じ肉体を持った女、人間に、何か係わったことなのかと怪しみ疑わずにはいられない気がするのではないだろうか。彼女には、実に、解し得ないことと感じられる。しかも、心全体には、無言の裡に、暗い悲しい、憤おろしい迄の激情が迫って来るのである。
 理屈でなく、議論でなく、おせいは、巨人のように力のある手を延して、一揉みに、この煌《きら》ついた、しらを切った建物を揉み潰してしまいたい心地がした。
 壊れた屋根板を撥《は》ね、折れ倒れた鉄棒を掘り除けたら、中から、始めて、人らしい、涙を流す、自分達の仲間が出て来るだろう。
 いくら考えても、嘘だかほんとだか判らないこんな穢い絵姿ではな
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