なるほど、同じような建物が、余りきらきら、余り寂しく立っている。――おせいが、深く黙り込んでしまったせいか、小関はつぎ穂がなさそうに、格子の間を出たり入ったりして、先に立った。
或るところでは、まだやっとはたち位の学生が、わざと顔を隠すように背を丸めて台の男と差し向いながら、何かひそひそ囁き合っている。
或るところでは、独りで入って行った小関を見つけて、男が、いきなり、低く早口に、
「あ。旦那、ちょいと、ちょいと、好い話」
と呼び止めながら、扇を持った手を延して中腰になる。おせいが一緒だとは気が付かず、何か云おうと唇まで出かかった言葉を、ふいと飲み込んで、そのまま素知らぬ顔をする男もある。
行くうちに、彼女は何となく腹立たしいような気分になって来た。
あの男達は、一体どんな心持であんなことをやっているのだろう。胸位まで来る台を控え、パチパチと扇を鳴らし、或る者はすっかり禿げた頭を燈火に照しながら、眼を動して、何か、絶えず求め漁っている。恐らく家があり、妻子がある、あれも夫であり父親であるのかと思うと、おせいは訳の分らない辛い心地がした。
またこの特殊な世界の生活を、倫理上の「
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