思う。
我等は、教育の概念にあやまたれ
社会人の 才に煩わされ
ホメロスの如き 太古の本心を失った。
何処までも 繊細に 何処までも 鋭く
而も大らかに 生命の光輝を保つことこそ
人間は、芸術は
甲斐ある 精神の果実だ。
其処に 日が照り 香気がちり
朽ちても 大地に種を落す
命の ひきつぎて となり得るのだ。
私は、謙譲な 一人の侍女
それ等の果物を一つ一つ
みのるがまま、色づくがまま
捧げて 神に供える。
朝 園を見まわり
身体を浄め
心 裸身で
大理石の 祭壇に ぬかずく。
或時は 常春藤の籠《こ》にもり
或時は 石蝋の壺に納め
心 はるばると、祈りを捧げる
神よ、四時の ささやかな人間の寄進を
納め給え、と。
冬見た私を、今日同じ私だと思うだろうか?
又、雄々しい活力が、今私の心を揺る、
サムソンのように、
殿堂の柱に、今手をかけたサムソンのように
神の命あれば
山をも移す 信仰が
野に来、自然に戻った私の胸に満つるのだ。
草の戦ぎ! ひたと我下にある大地
ああ、よい 初夏よ
私は 母の懐 野天に帰り
心安らかに
生命の滋液を吸う
胡坐を組み
只管《ひたすら》
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