モニュメントともなるだろう。

ひとは 只一ひらの紙を見る。
然し 何たる命があるか
よき友わたしばかりは
神秘な おまえの息ぶきを感じるのだ。

     *

心が沈み 希望が色あせた時
よき友、お前はその点々の線から
サファイヤのような耀きを燦めかせて
私の心を 鼓舞して呉れ。
お前の裡には
慕しい我北国の田園も
日に戦ぐユーカリの葉もある。
野に還し、不思議な清澄への我ノスタルジアを癒して呉れるのは
お前の
見えない心の扉ばかりだ。

無限の世界の上に
ただ ひとひら
軽く ふわりと とどまって居るお前
耳を澄せば 万物の声が聴える
眼《まなこ》をきよめれば 宇宙があらわれる
畏ろしい 而も 謙譲なお前
紙と呼ばれて
ねんごろに 日を照り返すのだ。

  五月二十九日

わが心 素朴な 原始に還り
一目で、ものの しんを掴みたく思う。
現代の 複雑さ、未来派や耽美派やソシアリストや
皆、生命の ワン グリムプスを奉じて居ると思う。
生命の本源、生存の真髄は
決して、ナレッジで啓かれ、触れられると思わない。
大なる直覚、赤児のような透視
無二無私に 瞳を放つ処に
真の根源があると
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