五月の空
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)犇々《ひしひし》と

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「(啗−口)+炎」、第3水準1−87−64]
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 一九二二年五月
 或午後、机に向って居ると、私の心に、突然、或諧調のある言葉が、感情につれて湧き上った。
 丁度、或なおしものの小説を始めようかとして居、巧く運ばないので苦しかったので、うれしく其を書きしるした。
 後、折々、そう云う現象が起る。
 純粋に云って、詩と云うもののカテゴリーに入るか、如何《ど》うか、兎に角私にとっては、斯様な形式で書く唯一のものだ――私の詩と云える。
 段々、かたくなく文字が流れ出す快感を覚える。何処まで、形式、内容が発達して行くか、
 私にとっては、頭のためにも、感情のためにも、よい余技を見出した。

  五月一日

あらゆるものが、さっと芽ぐみ、
何と云う 春だ!
自分の心は、此二十四歳の女の心は
知らない憧憬に満ち、
息つき、きれぎれとなり
しきり
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