に何処へか、飛ぼうとする。
一つ処に落付かず
ああ 木の芽。 陽の光。
苦しい迄に 胸はふくれて来る。

     *

心が響に満ち 音律に顫えて来ると
詩の作法は知らぬ自分も、うたをうたいたく思う。
何と表したらよいか 此の心持
どう云うのだろう 斯う云う 優しい 寂しい、あこがれの心は。
小説を書く自分は、辛くなり、
原稿紙をかなぐりのけて 眼を動かす。
見出そうとするように
此心を、さながらに写す 言葉か、ものかを
見出そうとするように。

     *

それは、あの人の詩はよい。
優雅だ。 実に驚くべき言葉のケンラン。
けれども。――
そうです。あの方のも、素敵ですね。
放胆なイマジネーション。ファンタジア アラ……
然し。――私の心は、どうしても満足しない。
とん とん、と、胸に轟くこの響が、
あれ等の裡に聴えましょうか。
迫り、泣かせ、圧倒するリズムが
あれから浸透して来ますか?
ああ、私の望むもの、私の愛すもの
其は、我裡からのみ湧き立って来るものだ。
静に燃え、忽ちぱっと※[#「(啗−口)+炎」、第3水準1−87−64]をあげ、
やがて ほのかに 四辺を照す。

 
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