と
親子の愛
まして 自分と父との仲にあるような 父親の
愛《いつ》くしみの微妙さを 思う。
いささかの陰翳《かげ》もなく
調和し 活力を増し
箇性を のどかに 発育させる。
犇々《ひしひし》と思い出が迫り
父のなつかしさ!
四つ五つの 我にかえる――。
*
心に 満ち充ちる愛も
金がないので 表し得ない時のあるのを
又その時の如何に多いかを
此頃知り
憂いを覚ゆ。
父の上を思い、いろいろの なぐさめや悦びを与えたい。――
それは、勿論 もの[#「もの」に傍点]ばかりが
我心のまことを告げは しない。
けれども、ものも[#「ものも」に傍点] 入用《い》るときがある。
春先 一緒に 二日三日の旅もしたい。
子供の時から愛され 又我も愛し
然し 我ままで、勝手に振舞った過去を思い
ゆっくり、よい伴れになって
一生には せめて 一二度 旅がしたい。
此思いは、何で晴らせる?
どうぞ 自分に僅かの金がたまり
のどかに 父と旅行出来るように、
どうぞ それまで 父上
たっしゃで 元気で
今の もうちゃまで いらしって下さい。
五月二十六日
わが心は 深き 井戸
く
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