憧憬と帰依とが 全心を占める。
真の芸術への直覚。
然し、此時多くの 友達と、所謂読者はお前を離れるだろう
彼等には あまり ひためんだから
あんまり 掴む あぶはち、とんぼ が
見えないから。
*
勢こんで ものを書き
非常に おなかが 空いた。
何か食べたいな。――然し良人はまだ帰らない。――
自分は、座って サイドボールドの中を覗き
美しい柳の描いてある 水なし飴を一つつまみ
ひとりで、部屋を見廻し 味わう。
考えて見ると――貴女はそう思いませんか?
人間そのものが芸術であると、思う。
音楽や、絵や、建築、文学が、皆
我々の、皮膚の下、髪の裡、眼の底にある。
それ故、時に 魂が熱し鳴りひびき
どうにも 仕方のない時が
あるのではありますまいか。
歌のうたえるものはよし
線で 宇宙を抱けるもの、文字を愛せるものはよい。
何にも、心を注ぐすべない人が
盲《めくら》滅法に 恋をする。
夢中になって する――
その心根は、いじらしい。
*
或時には
余り朗らかとも云えぬ情慾を混えた夫婦の
愛を経験して見る
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