がある。

歌おうか、踊ろうか
 ギリシアの少女のように
 何故! 手脚は靭《しな》やかに舞わないのか

狭い日本、小さい社会
心は あまりに拡がる。
素朴に 感激を表わそうとする女
裸形の 人間 はなにか。

  五月三日

芸術の 真の 畏ろしさ
心に 真実 愛が満ち
信に安らいだ時
私は始めて 物も書ける。
働くことも愉快になる
女中なにか。何!
物が真個に書ける時
私は、うれしく働ける。
生きることの ありがたさ。
何故いつも、斯様にはあらぬか
        わが、こころ。

     *

あわれな、わが、こころ、
歓びに躍り
悲しみに打しおれ
いつも揺れる、波の小舟。

高く耀き 照る日のように崇高に
どうしていつもなれないだろう。
あまりの大望なのでしょうか?
神様。

     *

自分は 始め 天才かと思った。
   あわれ あわれ は……。
然し、その夢も 醒めた。 有難い。
今は、一片の草のように
つつましく、愉しく、熱心に芸術に向って居れば。安らえる。

  発育

始めに 本能の憤りが 来
次に 道徳 正義の感が起る。
やがて そろそろ 耀きの実体が見え

前へ 次へ
全13ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング