員に別の棚からその本を出して貰い、金を払っている。
 成程これは、ソヴェト同盟らしい親切なやりかただ。ただ新刊書を一まとめにして、丸善の棚みたいに並べてあるのではない。この本棚が、謂わば書籍購入相談所なのだ。経済なら、経済に関して読むべき本が一通りまとめ初歩的なものから高度なものまで並べてある。
 党に関したものにしろ、ロシア共産党史から、コミンテルンに関するもの、五ヵ年計画に関するパンフレットに至ってはブハーリンの誤謬を簡単に説明したものまで包括している。
 その本棚について調べると、或る特定の問題について何を読むべきかが、人にきかないでもわかる仕組みになっているのだ。
 段々歩いて見ると、こういう本棚をこしらえたのはそこばかりではなかった。これも、ソヴェト五ヵ年計画の素晴らしい成果の一つである。美しい郵電省の先に、少年図書販売店がある。入って見ると、ある、ある! 色彩も美しい五ヵ年計画の絵解きから、十月革命の相当のむずかしい歴史に至るまで小学校の学年順に並べた棚が出来ている。
 モスクワを留守にしたのはたった一ヵ月未満だった。それだのに、ブルジョア書籍店と同じような体裁だったソヴェ
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