店ではラシャの布地まで扱っている。托児所、学校、|革命の家《コンムーナ》、病院は建築中だ。案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花の咲いたひろい通路を歩いていたら、こっちでは電熱炉で鉄を溶かしている鍛冶部の向い側のどこかで、嬉しそうなピアノの音がしはじめた。
「セルマシストロイ」は巨大工場で未完成だ。各部がまだクラブを職場の近所の建物の中にもっている。丁度昼休みで、ソヴェト同盟の労働者が仕事着のままその前に坐っているピアノの音が聞えはじめたという訳だ。ここではタイプライターで綺麗にうった職場の壁新聞を見た。
強烈な、新鮮な建設の現実にうたれてモスクワへ帰って来た。
間もない或る日、国立出版所の店へ行くと、どこか店内の模様がかわっている。見ると、これまでズラリと壁にはめこまれていた本棚とは別に、一つ大きい本棚が飾窓のこっちにこしらえてある。
経済。農業。機械。
五ヵ年計画に関するパンフレット。
政治。
党に関する文献。
反宗教。
そういう貼紙が本棚の各段ごとにある。人が絶え間なくその前にたかり、或る者は手帳を出して書名をひかえている。或る者は直ぐ黒い上被りを着た店
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