か? 遠い例はいらない。トルストイのコサックや傑出した短篇「ハジ・ムラート」を読むだけでいい、帝政時代の権力は、自分たちをこやすために搾取するための植民地、属国、だましやすい辺土の住民としてだけ彼等を思い出した。
 コーカサスの雄大極まりない山嶽を南へ縫ってウラジ・カウカアズから、スターリンの故郷チフリースまで、立派な自動車道が通っている。今日そこを走るのは、労働者・農民の陽気な観光客を満載した遊覧乗合自動車だ。が、道普請は、昔そのためにされたのではない。軍用だった。帝政ロシアの権力が武力で、絹、皮革の産地チフリース、石油のバクー市を掌握するための近路として拵えたものなのだ。
 近東の少数民族の大衆は、灼けつく太陽の熱や半年もつづく長い冬の中で原始的な手工業、地方病と、封建的地主、親方の二重の搾取の下で、極めておくれた文化をもっていた。
 自国語で読み書きすること、著作すること、芝居することまでを禁止され、どうしてのびのびした文化が育てよう! 学校がたまに在れば、それはロシア語でだけ教えた。
 赤旗はヤクーツクにも翻った。チェルフスの村にも村ソヴェトが出来た。少数民族の大衆は殆ど信じら
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